FXのボリュームは信用できるのか?

本記事ではティックボリュームと実際のボリュームの関係性についてまとめます。

当サイトではこれまでに「ボリューム」について多くの解説をしてきました。

ボリュームプロファイル、ワイコフ理論、VWAPなど、これらは価格だけでなくボリュームを利用して相場の状況を判断するわけですが、定期的に以下のような質問をいただきます。

「FXのボリュームってティックボリュームでしょ?本当のボリュームとは違うんじゃないの?」

確かにその通りです。

では、FXではボリューム分析は使えないのでしょうか?

今回はFXのティックボリュームと実際の取引量について調査した記事(Forex Tick Volume vs Real Volume Study)の内容についてご紹介し、その中でどのような結論が得られたのかまで解説します。

加えて、FX業者同士のボリュームの相関について私が調査した結果も報告します。

まず結論を言えば、「ティックボリュームは実際の取引量の代わりに使える」です。

そもそもFXではなぜ本当の出来高が分からないのか

FX市場は、株式市場や先物市場とは取引構造が異なります。

株式や先物は、基本的に取引所で売買されます。

これらの取引は中央の取引所に集められるため、どの価格で、どれだけの数量が取引されたのかを把握できます。

そのため、取引所は市場全体の出来高を、ほぼリアルタイムで公表できます。

一方でFXの場合は、特定の取引所だけで売買される市場ではありません。

  • 銀行同士の直接取引
  • 銀行と金融機関の取引
  • ECNを通じた取引
  • FX会社と顧客の取引

など、さまざまな場所で同時に売買が行われています。

参加者も多岐にわたります。

銀行、証券会社、ヘッジファンド、プロップファーム、事業会社、個人投資家などが、24時間にわたって世界中で取引しています。

このようにFX市場は分散しているため、市場全体の取引数量を1つにまとめて、リアルタイムで正確に記録することが困難です。

その代わりに、多くのFXチャートでは、価格が更新された回数を数えます。これがティックボリュームです。

ティックボリュームの詳細

ティックとは、価格が更新されることを意味し、一定時間内に価格が更新された回数をカウントしたのがティックボリュームです。

一定時間内に価格更新が多ければ、ティックボリュームは大きくなり、反対に価格更新が少なければ、ティックボリュームは小さくなります。

基本的な考え方としては、市場参加者の取引が増えるほど、売買注文や価格提示の変更が増え、価格の更新回数も多くなると考えられます。

そのため、ティックボリュームが大きい時間帯は取引が活発であり、小さい時間帯は取引が少ないと推測できます。

ただし、この推測が本当に正しいのかについては、以前から議論がありました。

なぜティックボリュームは信用できないと考えられていたのか

ティックボリュームと実際の取引量が、必ずしも一致しないと考えられる理由はいくつもあります。

例を挙げていきます。

価格は取引量が少なくても大きく動くことがある

経済指標や要人発言などのニュースが発表された直後には、価格が急激に動くことがあります。

市場にある注文が少ない状態では、比較的小さな取引でも複数の価格帯を一気に通過する可能性があります。

この場合、価格更新回数は大きく増えても、実際の取引量がそれほど多くない可能性があります。

つまり、ティックボリュームだけが急増するケースです。

少ない取引量でも価格が何度も変わることがある

小口注文が短時間に何度も成立すれば、価格は頻繁に更新されます。

しかし、1回あたりの取引数量が小さければ、価格更新回数が多くても、実際の取引量はそれほど大きくなりません。

大口取引でも価格が動かないことがある

反対に、大口の買い手と大口の売り手が同じ価格で取引すれば、非常に大きな数量が取引されても、価格はほとんど動かない可能性があります。

たとえば、1億通貨の買い注文と1億通貨の売り注文が同じ価格帯で成立した場合、実際の取引量は非常に大きくなります。

しかし、価格更新の回数は必ずしも多くなりません。

値幅が大きいだけでティックが増える可能性がある

一定時間内の値幅が大きい場合、価格は複数の水準を移動します。

その過程で価格更新回数も増えやすくなります。

しかし、これは単純に価格変動が大きかったためであり、取引数量が多かったとは限りません。

反対に、狭いレンジで大口取引が繰り返されれば、実際の取引量が大きくても、価格更新回数は少なくなる可能性があります。

このような理由から、ティックボリュームと実際の取引量には、必ずしも強い相関がないのではないかと考えられていました。

調査で利用したデータについて

調査結果を見る前に、記事の検証で使用されたデータが、どこから取得されたものなのかを整理しておきます。

この調査では、主に次の3つのサービスからデータが集められました。

  • HotSpot(ECN)
  • EBS(ECN)
  • Interactive Data(価格配信サービス)
  • eSignal(価格配信サービス)

HotSpotとは

HotSpotは、銀行や金融機関などが外国為替を電子的に売買するためのECNです。(現在のCboe FXにあたる機関投資家向け電子FX取引ネットワークです。)

ECNとは「Electronic Communication Network」の略で、日本語では電子取引ネットワークなどと訳されます。

ECNには複数の銀行や金融機関、ヘッジファンドなどから売買注文が集まり、条件の合う注文同士が電子的に成立します。

株式取引所のようにFX市場全体の取引を一元管理しているわけではありませんが、ECN内で成立した取引については、実際の取引数量を記録できます。

今回の調査では、HotSpotで成立した実際の取引量に加えて、HotSpot内部の価格更新回数も利用されました。

つまり、同じ取引ネットワークの中で、

  • 実際にどれだけ取引されたのか
  • 価格が何回更新されたのか

この2つについて比較することができたことになります。

EBSとは

EBSも、銀行や大手金融機関が利用する代表的な電子外国為替取引ネットワークです。(現在はCME Group傘下のEBS Marketとして運営されています)

特に銀行間のFX取引で広く使われてきたサービスで、機関投資家向けのインターバンク市場における主要な取引基盤の1つです。

EBSもシステム上で成立した取引については、実取引量を記録できます。

記事のの調査では、HotSpotとEBSという2つの異なる取引ネットワークのデータを使うことで、特定の1社だけに依存しない形で検証が行われました。

記事内では、HotSpotとEBSを当時の世界最大級のECNとして説明しており、そこから実際の取引量データを取得しています。

Interactive DataとeSignalとは

Interactive Dataは、金融市場の価格情報などを配信するデータベンダーです。

eSignalは、Interactive Dataが提供していたチャート・市場データサービスで、FXを含むさまざまな金融商品の価格データを確認できます。

eSignalはFX会社そのものではなく、売買の相手になる業者でもありません。

今回の調査では、eSignalから取得したティックボリュームが使用されました。

調査結果

調査ではでは、すべての取引データを1時間単位に分類してボリュームを集計しました。

そのうえで、実際の取引量とティックボリュームが、時間帯ごとにどのような動きをしているかを比較しています。

これはユーロドルについて実際の取引量とティックボリュームを重ねたグラフです。

  • 赤:HotSpotの実取引量
  • 緑:HotSpotのティックボリューム
  • 青:eSignalのティックボリューム

グラフを見ると、絶対的な数値は異なりますが、増える時間帯と減る時間帯がほぼ一致しています。

早朝に低下し、欧州時間に増加し、ニューヨーク時間にかけてピークを形成し、その後再び減少するという流れです。

しかし、実際の取引量とティックボリュームが、完全に同じ比率で動いていたわけではありません。

取引が最も活発になる時間帯では、ティックボリュームの増加率よりも、実際の取引量の増加率のほうが大きくなっていました。

その理由としては、活発な時間帯には平均取引サイズが大きくなることが考えられます。

たとえば、同じ100回のティック更新があったとしても、閑散時間帯には1回あたりの取引数量が小さく、ロンドン市場とニューヨーク市場が重なる時間帯には、1回あたりの取引数量が大きくなる可能性があります。

ティックボリュームが示すのは価格更新の回数であり、1回の取引サイズまでは分かりません。

そのため、実際の取引量が急増するピーク時間帯では、ティックボリュームだけでは取引量の大きさを完全には表現できない可能性があります。

それでも、増加するタイミングや減少するタイミングは、両者で非常によく一致していました。

ティックボリュームと実際の取引量の相関

この研究の結論としては、1時間足レベルでのティックボリュームと実際の取引量に非常に高い相関関係が確認されました。

研究対象となった4つの通貨ペアでは、相関係数がすべて0.95を超えています。


相関係数

EURUSD

0.9683

USDJPY

0.9583

GBPUSD

0.9894

EURCHF

0.9714

 

相関係数は、2つのデータがどれほど似た動きをしているかを示す数値です。

1に近いほど強い正の相関があり、片方が増えたときに、もう片方も同じように増える傾向が強いことを意味します。

今回の結果では、最も低かったUSDJPYでも0.9583、最も高かったGBPUSDでは0.9894でした。つまり、4通貨ペアのすべてで、ティックボリュームと実際の取引量が非常によく似た動きをしていたことが分かります。

したがって、この研究から、ボリュームの増減を見る程度の分析であればティックボリュームは十分に実用的だと考えられます。

調査結果を見るうえでの4つの注意点

記事の結果から、ティックボリュームは実取引量の代用として利用できると考えられます。ただし、以下の点には注意が必要です。

1時間単位の調査である

実取引量との高い相関が確認されたのは1時間単位のデータです。1分足や5分足など、短い時間足でも同じ結果になるとは限りません。

FX市場全体の出来高ではない

比較に使われたのはHotSpotとEBSで成立した取引量です。どちらも大規模な取引ネットワークですが、FX市場全体の出来高ではありません。

調査対象は4通貨ペアのみ

調査対象はEURUSD、USDJPY、GBPUSD、EURCHFの4通貨ペアです。流動性の低い通貨ペアでも同様の相関が得られるとは限りません。

2011年に発表された調査である

この調査が発表されたのは2011年です。
少しデータが古いため、現在とは全く同じ環境ではない点には注意が必要です。

ブローカーごとにティックボリュームの違いはあるのか?

記事の内容から、ECNの取引量とティックボリュームには高い相関があることが分かりました。

では、FX業者間でティックボリュームの相関はどれほどあるのか気になったので調べてみました。

調査方法

今回は1分足のティックボリュームで業者間で相関があるか調査しました。
調査したFX業者は以下の6つです。

  • FXCM
  • Oanda
  • Vantage
  • XM
  • Titan FX
  • FXTF

相関を求めた通貨ペア・時間足はドル円1分足でで、調査期間は2026年7月30日の18時から31日の午前5時までです。

この期間は日銀が介入して相場が非常に大きく動きました。

このような荒れた時は業者間でのティックボリュームも違いが生じやすいと考えられ、この期間で相関があれば、業者間のティックボリュームもそれほど違いは無いと言えるのではないかと考えられます。

結果

結果は以下のようになりました。(表は左右にスライドできます)

FXCM

Oanda

Vantage

XM

Titan FX

FXTF

FXCM

-

0.958

0.849

0.859

0.902

0.855

Oanda

0.958

-

0.905

0.919

0.951

0.916

Vantage

0.849

0.905

-

0.979

0.944

0.964

XM

0.859

0.919

0.979

-

0.945

0.965

Titan FX

0.903

0.951

0.944

0.945

-

0.931

FXTF

0.855

0.916

0.964

0.965

0.931

-

 

多くの業者間で相関係数が0.9以上となっています。
FXCMだけが他業者と0.8台になっていることが多いですが、それを含めても業者間のティックボリュームは相関が強いと言えます。

この結果から、業者が異なっていても、ティックボリュームが増減するタイミングは比較的よく一致していることが分かります。

各社が取得している価格データや接続先は同一ではないため、ティックボリュームの絶対値には違いがあります。

しかし、「どの時間帯に取引が活発になったのか」「どの場面で市場の活動が低下したのか」という相対的な変化については、おおむね共通していました。

したがって、FX業者によってティックボリュームの数値が違うからといって、ボリューム分析がまったく意味を持たなくなるわけではありません。

特に、次のような分析であれば、ティックボリュームは十分に利用できる可能性があります。

  • ブレイクアウト時に市場参加が増えているかの比較
  • 急騰・急落時に取引が活発化しているかの比較
  • トレンドが進むにつれてボリュームが増えているかの比較
  • 高値・安値の更新に対してボリュームが減少していないかの比較
  • 通常の時間帯と比較して市場が活発かの比較
  • ボリュームプロファイルやVWAPの計算

ただし、今回の調査だけで「どのFX業者のティックボリュームも同じ」とまでは言えません。

相関係数が高いというのは、増減する方向やタイミングが似ているという意味です。

各社のティックボリュームの数値そのものが一致しているわけではありません。

また、FXCMと一部の業者との相関が0.8台にとどまっていることからも、配信元や価格生成方法による違いは実際に存在すると考えられます。

今回の調査は、ドル円の1分足、約11時間という限られた条件で行ったものです。より確かな結論を出すには、通常相場と荒れ相場の両方について、複数の通貨ペアと長期間のデータを比較する必要があります。

それでも、少なくとも今回の調査期間では、業者が違ってもティックボリュームの動きは強く連動していました。

まとめ

FX市場には中央取引所が存在しないため、市場全体の正確な出来高をリアルタイムで把握することはできません。

そのため、MT4やMT5などのFXチャートでは、実際の取引数量ではなく、価格が更新された回数を表すティックボリュームが使われています。

ティックボリュームは実出来高そのものではありません。1回あたりの取引数量を把握できず、大口取引と小口取引を区別することもできません。

しかし、「Forex Tick Volume vs Real Volume Study」では、1時間単位のティックボリュームと実取引量の間に、0.95を超える非常に強い相関が確認されました。

さらに、当サイトが6社のFX業者を対象にドル円の1分足を比較した結果でも、多くの組み合わせで0.9以上の相関係数となりました。

これらの結果から、ティックボリュームについては実際の取引数量を正確に示すものではないものの、市場活動の増減を判断するための代替指標としては十分に利用できると言えます。

重要なのは、ティックボリュームの絶対値ではなく、相対的な変化を見ることです。

「前の時間帯より増えているか」「ブレイクと同時に急増したか」「価格が高値を更新しているのに減少していないか」といった見方であれば、実際の取引活動を推測する材料になります。

したがって、FXでボリュームプロファイル、ワイコフ理論、VWAPなどを使用できると思います。。

ただし、ティックボリュームだけで相場の方向を判断するのではなく、価格帯、トレンド、市場構造、時間帯などと組み合わせて利用する必要があります。

FXのティックボリュームは「本当の出来高ではないから使えない」のではなく、実出来高とは性質が異なるものの、その増減を推測する指標として使えると理解するのが適切でしょう。

 

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