タートルズの実験から学べることを考えてみよう!【手法・資金管理】

タートルズ」という投資集団の事をご存知でしょうか?
これは、アメリカの有名な投資家であるリチャード・デニスとその相棒であるウィリアム・エックハートの行った壮大で伝説的な実験の一つです。

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(写真左:リチャード・デニス、右:ウィリアム・エックハート)

実験の目的は、「本当にトレーダーは育成できるのか」を知るため。

2人によって集められたトレーダー予備群は、トレードの手ほどきを学び、実際に資産を運用しました。その結果、トータルで1億ドル以上を稼ぎ出すという素晴らしい偉業を達成しました。

今回は、このタートルズの実験について詳しく解説し、本当にトレーダーは育成できるかどうかについて私の考えを述べたいと思います。

リチャード・デニスとウィリアム・エックハートとは?

リチャード・デニスとその相棒であるウィリアム・エックハートは、トレーダー必読の書である「マーケットの魔術師」にも出てくる伝説的なトレーダーです。
(「伝説」と名のつくトレーダーは多いですが、この二人こそ本物の伝説です)

特にリチャード・デニスについては、マーケットの魔術師にて著者のジャック・D・シュワッガーがこう書いています。

彼は我々の時代のトレードの伝説の中で真先に出てくる一人である。
この本でインタビューを受けた他のトレーダーたちには、「彼と私では土俵が違う」と言われるようなトレーダーなのだ。

魔術師と評されるトレーダーの中でも別格扱いされる程のトレーダーです。

実際に彼は1986年には8000万ドル(現在の1億4700万ドルに相当)を稼ぎ出すという偉業を達成しました。

これは同年のジョージ・ソロスの収益である1億ドルやマイケル・ミルトンの8000万ドルに並ぶとてつもない成績です。

二人の議論

リチャード・デニスとウィリアム・エックハートは高校生からの友人で、トレーディングではパートナーを組む間柄でしたが、とあることで意見が分かれました。

それは、有能なトレーダーは育成できるのか?

リチャード・デニスの意見は「誰でも訓練すれば勝てるトレーダーになれる」
ウィリアム・エックハートは「トレードは教育ではなく素質だ」

この意見の相違がタートルズ誕生のきっかけだったのです。

皮肉なことにウィリアム・エックハートがこの意見に至った理由は、「相棒」であるリチャード・デニスがトレードの天才過ぎたから・・・だそうです。

それを間近で見てきたからこそ、「素質」が必要だと感じたのでしょう。
(ウィリアムもシカゴ大学卒の数学者で超エリートですが・・・)

トレーダーの研修生を募集中。興味のある人は誰でも歓迎

二人はこの議論に決着をつけるべく、素人のトレーダーを募集して教育することにしました。
どっちの意見が正しいのかを賭けたのです。

募集は1984年と1985年の2回に分けて行われ、合計で23人が採用されました。
二人はこのトレーダー育成プロジェクトを「タートルズ」と名付けました。

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タートルズの成績はどうだったのか?

結論から書くと、タートルズは4年間で年率80%以上、トータルで1億ドル以上の利益を出しました。

当時の1億ドルは現在の1億8500万ドルに相当し、1ドル110円としても何と203億5000万円!です。

とんでもない数字であることがわかると思います。

中でも一番高いリターンを上げたのが最年少のカーティス・フェイス。
彼は4年間で3000万ドル(現在の56億9000万円)稼ぎ出したと言われています。

タートルズは二人の教えを口外してはいけない契約を結んでいたために外部者からはそのトレード方法が全くの謎で、これが更にタートルズの名前を神秘的かつ有名なものにしました。

伝説のトレーダーによるトレード教育プロジェクトもまた伝説となったのです。

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勝てるトレーダーは育成できる!

リチャード・デニスとウィリアム・エックハートの行った壮大な実験から、「勝てるトレーダーは育成できる」という結論が得られました。

タートルズの4年間で年率80%以上、トータルで1億ドル以上のリターンという結果を見れば、疑う余地はありません。

賭けに負けたウィリアム・エックハートは新マーケットの魔術師の中でこう述べています。

そして私は、教えるなどということは簡単なことではない、という意見だった。我々ができるからといって、教えられるということではない、と主張したんだ。トレーダーは、具体的にプログラム化することができない何かを付け加えるもの、と思っていたんだ。

しかし、それは間違いだったことが証明されたのさ。

タートルズのプログラムは素晴らしい成功を収めたと思うね。概して、タートルズたちは非常にうまく取引することを学んだのさ。したがって、取引は教えられるか否かという質問の答えは「教えられる」ということだね。

しかし、この実験から手放しにリチャード・デニスの意見の方が正しかったとは言えないと私は考えています。

タートルズの手法は?

タートルズの最初の研修プログラムは第1回目の募集時では2週間、第2回目の募集時には1週間しか時間をかけなかったそうです。

トレードの経験の無い人間もいる中で、そんなに短い期間でトレードのノウハウを教えられるのかと不思議に思われますが、2人が教えたのは裁量判断が一切入らないトレードシステムでした。

具体的にはドンチャンブレイクアウトシステムを改良したもので

過去の20日間の高値を更新したらロング
10日間の安値を更新したら手仕舞う

という非常にシンプルなシステムです。

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実際にはこれにトレードフィルターも加えて取引して期待値を上げていたようです。

このシステム加えてタートルズの成功に大きく寄与したのが資金管理法です。

様々な商品でトレードしていく中で、「各相場のボラティリティに応じて取引枚数を調節しトレードリスクを一定に保つ」という当時では画期的な資金管理術のおかげでタートルズは資金を守りながら攻め続けることが出来ました。

システムと資金管理が見事に組み合わさった結果、タートルズは大成功したのです。

しかし、本当にトレードに素質はいらないのか?

4年間で1億ドルの利益を出したタートルズは、「トレードを教えることは可能で、素質はいらない」と結論付けられたように思えます。

しかしよくよく考えてみると、そう簡単に断定はできないのです。
その理由をまとめます。

1.タートルを選ぶための予備選考テストと面接があった。

当時のスーパートレーダーがトレードの教育をすると広告を出したインパクトは凄まじく、1984年の第1回目の募集では1000人以上の人が応募したそうです。

その中で予備選考テストに受かって面接に進んだのが40名程度。
結局タートルズに入れたのは13人でしたので、倍率は少なくとも77倍以上です。

2回目である1985年の募集では1期生の成績が凄まじかったので更に応募者は多かったと思われますが、この時は10人しかタートルズに採用されませんでした。

この選考でどんなタイプの人が積極的に選ばれたのでしょうか?

伝説のトレーダー集団 タートル流投資の魔術では以下の人が1期生にいたと書かれています。

タートルズに選ばれたトレーダー
  • ギャンブルとゲーム全般に、並々ならぬ興味を持つ人物
  • シカゴ大学の言語学博士号を持つ人物
  • 米国最大手の穀物企業、カーギル社ののトレーダー
  • トレーディング経験のある人物が数名
  • 会計士
  • ブラックジャックとバックギャモンのプロ・ギャンブラー
  • 当時では珍しいパソコンを利用してのトレードシステムの開発経験者(この本の筆者)

これらの経歴のある人を見ると、明らかに2人は知性と数字、および確率に対して造詣の深い人を選んでいたことが判ります。

自分たちの資金を預けてトレードさせるわけですから、当然と言えば当然ですが、全体として「儲けられるトレーダーの資質とキャリア」がある人を選んでいたようにも思えます。

2.タートルズの中でも「落ちこぼれ」がいた

タートルズは信じられないほどの利益を出して有名になりましたが、全員が等しく利益を出せていたわけではありませんでした。

使っていた手法はシステムですから、理論的には全員が同じ成績になるはずです。
しかし現実には個人差によるバラつきが非常に大きく、中には大きな損失を出してクビになった人もいました。

リチャード・デニスとウィリアム・エックハート選考を勝ち抜いた聡明な人間の中で、当時は非常に有効だったトレードシステムを用いていても、負ける人はいたのです。

トレーダーは教育できるが、誰でも勝てるようになるとは限らないが・・・

以上の事を加味してタートルズの結果について考えると、

「優秀なトレーダーを育成することは可能だが、勝つためにはトレードの素質が全く必要ないとは言い切れない」

と結論付けられるのではないでしょうか。

私のトレードコーチとしての経験としても、この結論の方が辻褄が合うのです。

現実問題としてトレードの素質というものがありますし、素質がある人は比較的早く技術を習得して勝てるようになるのです。

個人的にはこの結論に更に付け加えたいことがあります。

「しかし素質よりも本人の意思の方が重要である」

素質が無い人は何を教えても全然ダメかと言われればそんなことは一切ありません。
本人が勝てるようになるために一生懸命努力し、トレーダー的思考と技術を時間をかけながらも習得していけば、利益は出るようになるのです。

実際、私も含めてほとんどの人が素質はありません。
素質の無い人間が勝てるようになるためには、「教育」よりも「本人の意思」の割合の方が強いと私は感じています。

「教えてもらえれば勝てるトレーダーになる」と漠然に考えていたら先は遠くなるばかりなのです。

 

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